北海道の巻(10)

1986年8月

第11日

美幌を後にして北見市に向かう。昨日までの雨模様が嘘のように晴れている。気温も上がってきた。北見市内に入り、どういうわけか知らないけれど胸騒ぎがして荷物を点検すると、入浴セットが無くなっている。いつでもどこでもすぐに温泉に入れるようにと簡単に取り出せるように、今朝荷物を縛る時にロープにちょこんと挿んだのがいけなかった。途中で落としたのだ。少しばかり引き返してみたが無駄だった。食器も体も髪も洗える高価な万能シャンプーは惜しかった。

しかたがない、諦めて走り出す。旭川に向けて山越えをする。どんどん登っていくと、道路脇にキタキツネの放牧場があった。キタキツネは人間に有害なウィルスを持っているので触れないが、すぐ近くまでは寄っていける。たぬきもいて、こちらはうれしそうに寄ってくる。だっこしてやるとうれしそうだ。たぬきがこんなにかわいいなんて知らなかった。とにかく人懐っこい。かわいいかわいい。やたらたくさん写真を撮ってしまった。

石北峠を越え層雲峡へと降りて行く。このあたりまで来ると観光客が多い。そういえば高校の修学旅行でこんな滝を見たなぁと思い出した。

旭川で左折して、富良野市へ向かう。旭川空港の脇を通って行く。後続の車がクラクションを鳴らした。今度は地図帳を落としてしまった。路肩にバイクを止めて歩いて拾いにもどる。こうして教えてもらうのは助かる。ありがとう!

やがて上富良野にさしかかる。ガソリンスタンドで訊いてみると丘の上にキャンプ場があるという。すでに時期を過ぎてしまったラベンダー畑の丘を上って行くと市営の大きなキャンプ場だった。広すぎてとても歩けない程で、入り口からキャンプ・サイトまでもかなりの距離があった。さいわいバイクで入って行けたので助かった。

第12日

カラス達の声で目が覚めた。このごろでは、このような山の中の鳥の声を聞いたことが無い都会からのキャンパー達は、管理室に「あのスピーカーうるさいので止めてください!」などと怒鳴り込むそうだ。確かにこのような静かな森の中では鳥の声はひときわ高く響き渡る。

丘を下り、中富良野の富良野小学校に寄ってみる。校庭の中に「北海道のへそ」の石碑がある。

夏休み中のせいか、自由に入れる雰囲気だった。石碑の前で他の旅行者達と一緒になり記念写真を撮った。ここで遭ったのも何かの縁ということで一緒にあのフジテレビ「北の国から」の黒板五郎の小屋を見に行くことにした。東京から飛行機でやってきてレンタカーで走ってるOL二人組み・乗用車の青年二人・バイクは僕ともうひとり。一直線にすっ飛ばして行った。

六郷の森まではひとっ走りだった。たくさんの丸太小屋が建っていて観光地になっている。その中でひときわ古ぼけた小さな小屋があのテレビでおなじみのものだった。なんだこんなに小さいのかと驚くほど小さい。この秋からはまた撮影があるというような事が看板に書いてあった。いつ放送になるんだろう楽しみだなぁ。

黒板五郎の小屋

丸太小屋のレストランでみんなと昼食をとった。そしたらどんどん仲間が増えてきてすごい人数になってしまった。

誰かが言い出した、畑の中の一本の木を見に行くことになった。それがどんなものなのかどこにあるのかもよくわからないけど、成り行きというものである。林の中、畑の中を進んでいき、ようやくたどり着いた時、カメラがないことに気づいた。あのレストランに置き忘れたのだ。僕一人で戻ることにした。ここでみんなとはお別れだ。

カメラはちゃんとそこにあった。都会ではこうはいかない。

また一人で走り出す。丘の上のジャガイモ畑で写真を撮った。この旅で一番のお気に入りである。

 じゃがいも畑で

富良野駅までもどり、札幌の田島に電話したら、居た。今日は日曜日だった。時計を見るともう16時である。そこから札幌まで飛ばして2時間。しらない道をひたすら走り、なんとか予定通りたどりついた。札幌の街は碁盤の目になっていて一度聞いた住所だけですぐ近くまで着いた。

その夜はすすき野で食べて飲んで、大いに語り、ぐっすり眠った。

第13日目

あまりにもぐっすり眠ったので、田島が仕事に出かけてから目が覚めた。今日は一日札幌でのんびりすることにした。地下のランドリーで泥だらけの衣類を洗濯し、乾燥させている間、また眠った。昼になって街に出掛けて映画を見た。北野武志が出ている「スローカーブをもう一度」といういうやつだった。

その夜もまたすすき野で飲んだ。札幌で飲むサッポロ・ビールはものすごくうまかった。

1999年1月23日記

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