海ほたるの巻

1998年3月

海ほたるって何?

インターネットの「So-net Riders Club」に入会したものの、仕事の都合でなかなか行事に参加する機会がなかった。ひさしぶりにサイトを覗くと、ツーリングの告知があったので、仕事を休んで参加することにした。

3月28日(土)9時久里浜港集合とある。あそこなら一時間で行けるので都合が良い。南房総を廻って最後には海ほたるを渡って帰るとの事。

この「海ほたる」にはちょっとこまったことがある。実はつい最近までこの単語をまったく知らず、会社の同僚たちに笑われてしまったのだ。いくら考えてもそれがどんな生き物なのか想像もつかないと言ってはまた笑われ、頭の中は(・・??)という状態で、なぜみんなはそんなものを知ってるんだろうと不思議だった。新聞も取っていなくて、バイク通勤の為電車の中釣り広告を見る機会も無く、週刊誌も読まないので、まったく世間の状況にはうといのである。それが話題になっていることすら知らなかったのだ。

ついに「海ほたる」が何者であるかを知ったのは、NiftyserveのFFSというフォーラムの中でだった。フライト・シミュレータの東京の景色に追加するオブジェクトとしてある人がこの「海ほたる」をつくってくれたのだった。

その「海ほたる」に行けるのだから、これは良い機会である。なんとしても参加しようと思ったのだった。ひとりでは有料道路なんてめったに走らないのだから。

はじめてのマス・ツーリング

昨夜はビールを3本飲み遅くまでテレビを見て、さらに最後にインターネットでメッセージボードの最終確認をして寝たのだが、朝はいつもより早く起きた。ツーリングはいつもワクワクするものだが、今回は初めてのマス・ツーリングである。集合場所、集合時刻は決まっているが、誰一人として顔を知っている人はいない。いつもより余計にわくわくどきどきしている。

いつもの通勤時刻よりも早い7時20分に自宅のある大和市下鶴間を出発した。246号線を北に向かい保土ヶ谷バイパスに入る。混んでいるが路肩は走らない。よく捕まるので、皆さんもご注意ください。横浜横須賀道路に入るととたんに交通量が減るが、時間に余裕があるのでゆっくり走る。横須賀PAという標識が見えてきた。ここで集合している人たちもいるようなので、合流することにした。果たしてパーキングに入って行くと奥の方に数人のライダーがいた。ちょうど8時、Majestyを停めて「ソーネットの方ですか?」と訊くとそうだとの事。正確にはSo-netのライダーズ・クラブなのだが、これで通じる。ちなみに僕の場合、「ソーネット」と伸ばして発音している。ソネットと発音すると音楽用語になってしまいキザになるからだ。


横須賀PAを出て衣笠インターチェンジで降りた後、いきなりのY字路で数人が迷子になってしまい、路肩で少し待った。ほどなく合流できて一安心。なるほど、ソロ・ツーリングとは勝手が違う。長い列になって、途中の信号で切れてしまったり、間に他の車が入ったりしたら、その都度このような待ちの体勢が出てくるに違いない。

久里浜の東京湾フェリー乗り場に着くと、入り口近くに一人待っていた。赤いドゥカッティ。メールをくれた、”わたなべ”さんだな?とりあえず、キップを買う事にした。車検証が必要だ。前回このフェリーに乗ったのは会社のテニス・クラブの合宿で鴨川にある保養所に行ったときだった。あの時はハーレーに乗っていった。Majestyは250ccだから車検証は無い。確か何か登録証のようなものがあったなぁと捜したら、軽自動車届出済証というのが出てきた。250ccは軽自動車ということになるが、車検というものは無い。一回届けると更新というものは無いのだ。

キップは1280円だった。やっと9時である。バイクに戻ると、次の9時30分の乗船の為に並ぶようにとのアナウンスがあった。バイクは一番最初に乗船して壁際に一列にくくりつける。当然降りるのは一番最後になる。

あれ???キーが無い!?そんなばかな!あわてて、皮ジャンのポケットの中身を全部出して調べる。無い。スボンのポケットも調べる。無い。キップを買うときに落としたのだろうか?窓口に忘れたのかも?いやそんなことはない。きっと持っているに違いない。そのうち、みんなはバイクを発進させて行ってしまった。あった!なんといつもそんなところには入れた事のない、ズポンの右後ろのポケットに入っていた。軽自動車届出済証などと持ちなれないものを持ったのでどこかで頭の回路がショートしたのかな?急いで発進してバイクの列の最後尾に着いた。一回に乗船できるバイクの数は限られていて18台までである。他のグループもいるので、置いてきぼりになるかもしれないと思ったが、実際にはそんなに時間は経っていなかったのだった。


そこへさらに2台到着して一行は12人となった。向こう岸ではもう一人待っているので、13人になる。乗船してから、簡単な自己紹介。とは言ってもハンドル名なので、さっぱりわからない。昨夜作ったAvocadoMixの名刺を渡した。あちこちから集まっているようで、一番遠い人はなんと静岡からやってきた女性だった。1100ccの銀色のカワサキに乗っていて、そのバイクの話題で盛り上がっている。その他にもなにやらZZRとかZZXだとか今の僕には耳慣れない名前のバイクが話題に上り、どうもついて行けない。デッキに上がって他の船を見る事にした。


海は霞んでいる。ゆうべまで雨だったからだろう。フェリーは大きな船、ちいさな船がそれぞれの航跡を残して左右に行き交っている中を直角に横切って進んでいる。すぐ前をとても大きなフェリーが横切った。苫小牧に行くのか、徳島に行くのか。さすがに外洋に漕ぎ出す船は大きい。艦橋ではのどかな雰囲気で操舵している。出入りには靴を脱いでスリッパに履き替えているから、和式の習慣が残っているのかな?どの船でもそうなのだろうか?どんどんフェリーというものが無くなっている。青函連絡船も無くなった。瀬戸内海では瀬戸大橋や、4月5日開通の明石海峡大橋でもフェリーが無くなった。今日これから渡る海ほたるを通る東京湾横断道路も、それまでのフェリー航路を廃止してしまった。この久里浜・金谷航路もなくなる運命にあるのだろうか?フェリーに乗るのはこれで5回目になる。毎回気象条件が違うので、その度楽しみがある。


千葉県側金谷港に接岸。最後に降りたわれらSRC(So-net Riders Club)は、まずガソリン・スタンドに直行。約半分が給油。そこで、これからのルートを房総半島最南端の白浜とし、先頭にやぶやぶさん、後尾にわたなべさんが就き、渋滞があっても路肩は走らないこととして、出発した。ようやく本格的なマス・ツーリングの開始である。ひとりで走るときとは違って、隊列を組む。これがまるで飛行編隊のようで、実にかっこいい。はじめての体験で、何の説明も無かったのだが、先頭から順に右左右左と道の両端に別れていくと自分もそれに伴い右端に寄った。編隊飛行だ。ブルーインパルスの一員になったようだ。


13台のバイクは、1100ccが2台、あとはだいたい400ccかな、250ccもMajestyだけではないようだ。金谷で待っていた人はホンダの250ccのオフロードだった。出発はしたものの、しばらく渋滞が続き、途中『道の駅』というドライブ・インでトイレ休憩。Majestyはクラッチが無く、水冷エンジンなので、渋滞などまったく苦にならない。普段は通勤で2・3車線の車の間をすれすれに、たまにはサイドミラーを擦りながら走っているので、のんびり走るのもいいものだと楽しんでいる。


ポピーの花畑を見ながらどんどん南下して、館山の海上自衛隊の飛行場脇を通った。ヘリコプターのマークが書いてある。そうか、どうりでここは着陸が難しいなと思っていたが、ヘリ用の滑走路だったんだ。(フライト・シミュレータの話です)

野島崎の灯台の前に到着。12時40分になっていた。ここには20数年前学生時代に来た事がある。ここの民宿に泊まった。あれからあんまり変わっていないような気がする

とりあえず腹ごしらえをしてから灯台見物をしようということになり、適当な食堂に上がった。これが大間違い。なんと食事が出てくるまで1時間もかかってしまった。しかもまずい。1700円も出してこんなまずいものを食べたのは初めてだ。とは言っても、一年の内、いっときの観光シーズンしか稼ぎ時が無いのだからしょうがない。

この間にもう一人の参加者に連絡がついた。SRCホームページの作者Shinさんである。彼はタイに出張していたのだが、今朝戻って、そのままこれから合流するとのことだった。もうだいぶタイム・ロスをしている。予定では鴨川まで行くはずだったが、このまま410号線を北上し、途中でShinさんと合流することになった。

 

時間が無くなったので灯台も見ずに海岸から離れ、まっすぐ房総半島のどまんなかを北上する。山はすっかり春である。竹薮が多い。いたるところ、竹が群生している。竹薮を見ると子供の頃を思い出す。屋敷の北側は竹薮だった。竹薮の中は子供の僕にとって、不思議な世界であった。いろんなものがあって、探検は飽きる事がなかった。地面はふかふかとしていて、子供の足をいたわった。父の真似をして、竹細工で貯金箱などを作った。初めての家庭訪問の先生の話題はその貯金箱だった。竹薮はまた、恐いところでもあった。動物の死骸、骨もあった。竹薮は想像を掻き立てるところだった。芥川竜之介の『竹薮の中』(映画では羅生門の一遍)のような作品も竹薮の持つこのような幻想的な雰囲気から生まれたのでは無いかと思っている。


金谷と鴨川を結ぶ道路との交差点でまた小休止。今回はタバコ休憩らしい。コンビニの前だったので、中に入ってガムでも買おうかと思ったら、なんとポケットに買い置きがあった。タバコは吸わないのでガムで間を持たせる。喫煙をやめて12年ぐらいになるかな?

ほどなく出発。その度に、走行順序が変わるのでいろんなバイクの排気音、エンジンのメカニカルノイズが聞ける。現在の大抵のバイクはDOHCになったので、メカ ノイズがうるさい。高回転で出力を稼いでいるので、よけいうるさい。OHVの静かなエンジンの方が田舎道を走るには似合っているのだが・・・。やっぱりハーレーの静かな音が懐かしい。

途中で右に折れてダムを通りぐんぐん登って行ったら、行き止まりになってしまった。どうやら、間違えたらしい。すごい坂道の行き止まりの為、大きなバイクはUターンが難しいようだ。さいわい広い路肩があったので、一台づつ方向転換して元の道に戻った。

すこし先のドライブ・インで休憩。ここでShinさんとの合流を待つことになった。どうやら、PHSは通信圏外の為、Shinさんとはコンタクトできないようだ。便利さは不便の裏返しである。

ここで小一時間ほど待ってようやくShinさんと合流出来た。さあ、後は海ほたるめざして出発。これで総勢14名である。

木更津に入ると渋滞にはまった。途中で2回目のガソリン補給。Majestyはまだまだ余裕である。リッター30km走るので、満タンで300kmは軽い。燃料ゲージがついているのは便利だが、問題は予備タンクが無いことである。これまた便と不便が同居している。

いよいよ海ほたるへ

 

海ほたるへとつづく高速道路の料金所(3800円)を過ぎてパーキングで記念撮影をした。すでに18時過ぎである。真っ暗とは言えないが、急速に暗くなりつつある。明るいうちに撮影しておけば良かったとは後の弁。

海ほたるは海上の人工島である。ここの駐車場の空きを待って3kmほどの渋滞が続いていた。脇を摺り抜けて行くと、駐車場整理係りの人が、我々の為の駐車スペースに誘導してくれた。こんな時バイクは有利である。バスも優先的に入れてくれるようだった。

ということで、18時30分、海ほたる到着となった。寒いのでセーターを着込んだ。


バスの団体がぞくぞくと降りてくる。東京湾のど真ん中にぽっかり浮いた人工島は、単なる中継点ではなく、観光名所となってしまった。千葉県と神奈川県を結んで輸送時間の短縮を図ろうとした目的はその余りの高額な料金の為挫折したが、この人工島まで来てUターンするという観光ビジネスには役立ったようだ。それにしても通行料が高額で渋滞の為、観光客のUターンは望めない。話しのタネに一度来てみれば十分だと思うだろう。


真っ暗な海面は向こう岸の明かりを映し、かろうじてここが島であることを示している。頭上を旅客機が旋回して行く。ちょうど向かい側が羽田飛行場だ。昼ならいいなぁ。

ひととおり、一巡したところで、解散することになったが、お土産を買って、また駐車場で集合してしまった。ここで、千葉県側にもどるShinさん達と別れて、地下に潜る。時速100kmで海の底に急降下して行くのは、回りが見えないので、それとはまったく気づかない。底に着いて水平になるのが、かえって上りになるような感覚がある。本日の最高速110kmを記録した。Majestyは余裕である。250ccとは思えない。

出口に近づくに連れ、左側車線は混み出した。ここで高速道路本線とは別れて川崎出口に向かう。約7分の海底旅行であった。

帰宅して距離計をみると、本日の走行距離は257kmであった。

横浜横須賀道路 950円
東京湾フェリー 1280円
昼食 1700円
東京湾横断道路 3800円
おみやげ 500円
合計 8230円

最後に、SRCの皆さんお世話になりました。ありがとうございました。