北海道の巻(3)

1986年8月

第4日

 いきなり札幌に行ってしまってはつまらない。積丹半島にでも行ってみようということで、二人と別れて出発した。洞爺湖を半周して峠に登る。ここで記念に一枚撮っておこう。

ガソリンが残り少ない、ところがガソリン・スタンドがさっぱり見当たらない。何にも無い!やはり内地とは勝手が違うようだ。あせってしまう。

真狩村からニセコ町へ曲がるあたりのところで、ようやくガソリン・スタンドを見つけたものの、あれっ?誰も居ない。事務所を覗いてみると、「ちょっとでかけてます。少しお待ちください」というメッセージが貼ってあった。この先、どこにあるかもわからない。ここで待つことにし、ぶらぶらと散歩する。人影らしきものはまったく見当たらない。役場のような建物、小学校とおぼしき運動場のある建物など見て戻ったら、ようやく店員がやってきた。のどかだ。

ニセコに向かう。羊蹄山の南側のふもとを走る。美しい山だ。

ニセコ神仙沼自然休養林という看板が目に付いた。大きな駐車場があり、このあたりを散策できるらしい。ちょっと歩いてみるか。

このころの僕のツーリング・スタイルはオフロード・バイクにジェット・ヘル、厚手のオフロード・グローブと登山靴である。気が向いたら歩き回る。ついでに2000mの山に登ったりもできる。あまりカッコイイものではないが、実用的である。

林の中を歩くこと30分で神仙沼とおぼしき沼が現れた。全体的に尾瀬湿原とそっくりの環境である。

尾瀬と違って、まったく人がいない。しばらくのんびりと眺めていた。

駐車場まで降りてきたら、だいぶ人が集まってきていた。ついでに何か署名運動の連中まで来ている。何々?泊原発反対?泊村というのは、この先の漁村で、そこに原子力発電所が出来るらしい。先日通ってきた下北半島の六ヶ所村では核燃料サイクル基地とかいうものを建設中で走ってる車はダンプカーばかりだった。

北海道での電力の消費は圧倒的に札幌に集中していることだろうし、ここからの送電によるロスを考えれば、もっと札幌に近いところ、いや札幌市内にも充分な土地があるだろう。不思議な世の中だ。

その泊村に降りてみる。すごい天気だ。空は真っ青。日差しは強烈で目に痛いほどだ。あまりの強烈な光のため、海岸沿いに走っていたら突然のトンネルの出現に目の前真っ暗という状態になり、パニック。まったく前が見えない。自分が目を開けてるのか閉じてるのかさえ定かでない。思い切って瞼を閉じて、ゆっくり開けてみる。まったく照明のない真っ暗な先に真っ白な出口が見えて来た。大丈夫、傾いてはいない。そう、自分の傾きさえも指標が無いとわからなくなってしまうものだ。バイクの場合は特にそういうもので、コーナーで外から見てかなり傾いていても、自分はちゃんと重心の上に乗っかっているので実に安定しているのである。外界を目で見るから傾いていることは自覚できるのだが、その外界が突然ブラック・アウトしてしまうと、それはそれは恐いものである。

この先には何もなさそうなので、またそのトンネルを引き返した。今回は他の車の後について尾灯から目を離さないようにした。コツをつかめばなんてことはない。

積丹半島を横断する。どんどん登る。登るといっても、内地のようなくねくねとした峠道ではない。雄大でなだらかな大きな道路で実に気分が良い。

あれっ?またもや事件!なんと時速60kmなのに回転計はゼロを指している。ケーブルが外れてしまったらしい。別に計器を見なくても音でわかるので回転計なんていらない。直さないでそのまま走ることにした。

積丹町からさらに先端に行ってみる。最先端の神武岬には行き止まりになったところから歩いて行くしかない。海岸のゴツゴツした岩場を登ったり降りたりしながらたどって行く。こんな時にも道連れはできるもので、何処の誰かは知らないけれど男女数人でわいわいさわぎながら歩く。

神武岬は絶壁である。真下を覗くとコバルト・ブルーの透き通った海がきれいだ。

また歩いて戻る。往復1時間。そろそろ今夜の宿を捜す時刻だ。

こんなゴツゴツした岩場ばかりではキャンプ場もありそうに無いが、走ってるうちにどっかあるだろうと、気楽なものだ。果たして海岸の道路の下、砂浜にたくさん人が集まっている。海水浴場兼キャンプ場だ。一度海水浴場でのキャンプには懲りているので、慎重にテント・サイトを捜す。砂の上は二度とごめんである。

ほどなく、絶好の場所が見つかった。他の人にとってはそうでないらしいが、草むらのふわふわしたベッドさえあれば、そこが電灯の下で虫が飛びまわっていようが天国である。ご機嫌ご機嫌。

昨夜の二人のせいもあり、食料が底をついてしまった。明日はなんとかしなくては。さらに、近くのグループに教えてもらった実に詳しい地図というか、北海道の旅の本が気に入った。キャンプ場の情報が詳細に載っているのだ。明日これも調達しよう。

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