9.人間チェーン

しばらく前からネットで話題になっていた「波に流された少年を救った人間チェーン」という動画が、昨日はYahoo!の映像トピックスにも載ってさらに大きく報道されています。この「人間チェーン」という言葉はこの歳になってはじめて聞く言葉でしたが、同じことを約40年前の高校二年生のときに経験したことを思い出しました。

当時はラグビーをやっていました。まだ発足間もなくて練習場さえも無く、宮城県古川市の北側を流れる江合川の河川敷でちょうどいい草地を見つけ、勝手に草刈をしていたところに土木事務所の係官が見回りに来て事情を話したら、「この下流の自動車学校の先に整備済みの広場があるので、校長名で使用願いを出せば無料で使えるようにしてあげるよ」というのです。確かに河川敷は国有地ですから、勝手に使ってはいけないのですが、無知な高校生でした。


当時の宮城県古川市(現大崎市)


A地点:最初に草刈りをしていた河川敷

B地点:練習場として借りた河川敷

C地点:当時の古川自動車学校

D地点:宮城県古川高等学校

E地点:当時の国鉄陸前古川駅


この後、4号線バイパスや東北新幹線の駅が出来て、まるっきり変わってしまいました。

さっそく次の日に合同庁舎内の事務所に出向いて申請書を受け取り、まず教頭に事情を話して校長に話を通していただき、後日押印をいただきました。なお、当時はまだ副校長という人はいませんでした。たぶんその職位はなかったのだと思います。


練習場も確保できたので、ラグビー同好会として正式に活動を認められました。ところが、練習場まではかなり遠いのです。行きも帰りもボールを両腕にかかえて走っていました。当時はまだバイパスが出来ていませんでしたので、国道4号線は町の中を南北に通っていて、そこを行けば近いのですが、歩道は狭くとても危ないので、交通量の少ない道を縫って走っていました。

特に帰りは汽車の時間に間に合うように必死でした。18時1分に乗り遅れると、乗り換えの問題で帰宅が21時過ぎになってしまうのです。部室に着いて着替えも早々に駅に走ります。あるときには下駄が割れてしまいました。


夏休みのある日、練習が終わって帰ろうとしたときに、誰とも無く目の前の川を泳いで渡ってみようという声があがりました。実はその前に数人で泳いで渡ったことがあり、その危険性はよく知っていました。立った位置から見ると向こう岸は案外近く見えるものです。また川の流れがかなり速いのでなかなか前に進まず、下流の方に十数mも流されてやっとたどり着いたのでした。そんなことを話していたら、
「おーい、助けてくれぇー!」
と声がします。川に入って遊んでいたとばかり思っていたH君が、川の中程で腰まで水に浸かって両手を挙げています。おぼれたふりをしてるみたいに見えて、みんなで笑っていたら、
「ほんとなんだ、動けないんだ!」
と必至に訴えました。流れが急な上に、川の底は不安定で足場が悪くて、立っているだけで精一杯な様子です。実際には立っているよりも泳いだ方が楽ですが、泳ぎに自身が無いようです。これは本物だと思い、どうしようかと一瞬みな青ざめました。

あわててみんなで飛び込んでいってもかえって危ないのはわかっていました。なにしろ一番体の大きなメンバーでしたから、助けるどころか巻き添えになるのは目に見えています。そこで、誰が言い出したのか忘れてしまいましたが、みんなで一直線に手を繋いで、そこまで延ばして引っ張り上げようということになりました。これこそ「人間チェーン」です。チームワークがこんなところで発揮できました。でも、その後の秋の試合は負けました。

2013年3月17日 記