50年ぶりの真実

高校に通うには6時半に家を出て自転車で駅に急ぎ6時50分のディゼルカーに乗る必要がありました。東北本線は小学校の時に電化になり、蒸気機関車の他に電車も走っていたのですが、このディーゼル発動機の列車は、途中の小牛田駅で乗り換えなしに、未電化の陸羽東線に入り、高校のある陸前古川駅まで直行できるのです。朝早いので乗客も少なくて、必ず座れるので教科書を開いて予習復習ができる為、とても便利でした。

その次の7時19分発の電車では、小牛田駅で陸羽東線の蒸気機関車に乗り換えなければならず、これはとても混雑していて座るどころかデッキに立ちっぱなしということもありました。この蒸気機関車に関しては蒸気機関車のページで書いています。

6時半に家を出るためには6時に起きる必要がありました。中学生の頃は、牛の世話をする為にかなり時間がかかっていましたが、高校になってからは牛が居なくなったので、30分で出発できたのです。

毎朝、6時に猫が起こしに来てくれました。この猫は前年の夏休みにもらわれてきた猫で、縁側で勉強する僕に付き添ってくれていたのでとても仲が良かったのです。毎朝6時ピッタリに起こしてくれたので本当に助かりました。なにしろ目覚まし時計などという物は持っていませんでしたから。


学生時代に、この猫を描いた油絵

50年後、母とこの話をしたときに、毎朝6時ピッタリに起こしに来るなんて、どうして時間が解ったのだろうと50年ものあいだ謎だったことを訊いたら、なんと、母が「あんつぁん起こしてございん」と頼んでいたというのです。

驚いた。そういう訳だったのか。自分で時間を見計らって起こしてくれた訳ではなく、母の依頼だったのでした。

ちなみに、「ございん」というのは、して下さいという丁寧な言い方であって、命令形ではない、猫に対して丁寧に頼み事をする言い方なのです。「あんつぁん」は兄さん、弟や妹ではなく僕のことです。

それにしても、母に頼まれただけで、弟や妹には構わずに僕の寝ている一番奥の座敷まで入ってきて、布団の上に登って僕の顔に息を吹きかけて起こすなんて・・・。

目が覚めると目の前に猫が居るので「おはよう、ありがとう!」と挨拶して支度をして、一緒に茶の間に行くのでした。


額に入れてみました。

2025年5月21日 記