工作室 13 最も役に立たない機械 (The Most Useless Machine の佐々木版)
はじめに
初めてこのThe Most Useless Machineを観たのはYouTubeだったかと思います。最初はなんだか意味がわかりませんでした。繰り返して観ると、箱の上に付いているトグルスイッチを入れると、箱の中から手が出て来てスイッチを切るのだとわかりました。つまり、電源を入れると電源を切るという機械なのです。なんと無意味な!これこそ最も役に立たない機械ではありませんか!感激しました。
今回の東日本大震災により福島第一原子力発電所では自動停止はしたものの、その後の処理をする電力が無くてメルトダウンまで進んでしまうと言う事故に至りました。原子力発電というのは、自分で止めることができないという欠点を露呈したわけです。その点、このThe Most Useless Machineは自分で電源を切ってしまうのですから、すばらしいではありませんか。今こそこの機械を作るべきだと思い至ったわけです。
まずは動く様子から機構を類推してみます。その結果以下のことがわかります。
- スイッチを入れるとモーターが回り箱の中から手が出てくる。
- その手がスイッチを押してトグルスイッチを反転させる。
- その結果、モーターが逆回転して手が箱の中に入る。
- 隠れているスイッチが感知して電源を切る。
これを元にして何枚もアイデアスケッチを描き案を練りました。すると、この動作そのものは案外簡単にできるので、さらに機能を拡張してみようと欲が出て来たのです。それは、
- 動きがよくわかるようにパイロットランプを付ける。しかもそれは箱から手が出て来てトグルスイッチを反転させると消える。
- 手が蓋を押し開けるのではなく、箱の蓋を手の動きとは独立させて開閉させる。
というものです。
回路解説
相変わらず手描き回路で申し訳ありません。これが僕なりの回路です。パイロットランプとしてLEDを付けているのが特徴です。
トグルスイッチをオン側に倒すと、このように電流が流れ、モーターが回り、手が出て来ようとします。
このとき、LEDには順方向に電圧がかかりますから、電流が流れて発光します。
腕が底面から離れると、マイクロ・スイッチがオンになりますが、その先は行き止まりになっているので回路としては変化がありません。
手がトグルスイッチに達して反転させると、電流の向きが逆になり、モーターは手を箱の中にもどします。
LEDには逆方向に電圧がかかりますから、電流は流れなくなり発光が止まります。
腕が底面に着くとマイクロ・スイッチが触れてオフになり、回路が遮断されて動作が止まります。
製作
一番の問題は箱です。最初は手持ちの透明なプラスチックの容器を想定して設計してみましたが、中身がもろ見えでは面白味に欠けますからやめました。
次は板で作ろうと設計図まで書いたのですが材料が高いのであきらめました。
そうしたところ、100円ショップでこの紙の箱を見つけました。ちょっと小さめですがなんとかなるだろうと思い買ってきました。実を言うと、閉店ギリギリだったので考える余裕が無かったのです。
この箱の大きさに合わせて設計図を描いてみます。CADソフトが使えれば、以前描いた物からの変更が簡単にできるのでしょうが、残念ながらそれができないので、未だに手描きです。
モーター・ギア・ユニットは手持ちの中で一番ギア比が大きい、これを使うことにしました。トグルスイッチを反転させるのですから、かなりのトルクが必要となるからです。
箱の中から出てくる手の部分です。イメージとしては猫の手を思い描いています。図面とちょっと違うのは、手持ちの板の幅が小さかったからです。
これが僕のオリジナル部分です。箱の蓋を別機構として開閉します。最初はカムを使う設計だったのですが、箱の大きさの制限からそれが入らない事がわかり、急遽思いつきを描いてみたものです。
ところがこれが後に問題を引き起こします。やはり付け焼き刃は行けません。じっくりと練った物でないとしっぺ返しがあるものです。ここに書いてあるよりもたくさんの試行錯誤がありました。
これが蓋を押し上げるてことなるものです。料理に使う竹串と、使い終わった消臭スプレーの中にあるナイロンパイプで作りました。
瞬間接着剤で固まったかに見えたものの、パキンと外れてしまいました。これは失敗です。
これは簡単じゃないなと、あれこれ材料を吟味して、硬い紙とつまようじで試作品を作ってみました。これならいけそうです。それでも4作目で実用となる物ができたのでした。
これが完成形です。というか、一歩前ですね。後で余分な部分を削りました。
トグルスイッチと発光ダイオードを取り付けます。パイロットランプを取り付けるのは僕のアイデアですから、ど真ん中にしました。
配線をします。
箱の中でリード線がからまないようにビニールテープで束ねておきます。
マイクロ・スイッチはここに木ねじで取り付けます。
このモーター・ギア・ユニットには固定用のねじ穴が2個しかありません。これでは動いてしまいますから、アルミ板でこのようなマウントを作りました。
箱の中に格納します。
なにしろ、この機構はこうして箱に取り付けないと動作チェックさえもできません。歯止めがきかなくて暴走しだすからです。なんだか原子力発電と似てますね。
反対側から見た図。
箱の上部に取り付けてある木片はトグルスイッチが取り付けてある蓋を強力に接着する為の物です。かなりの力がかかるので、こうしないと、蓋が動いてしまいます。
電池が箱の中でごろごろと転がらないようにと、木片で柵をつくって半固定としました。
下部。ゴム足を取り付けてあります。モーター・ギア・ユニットを固定するビスがはみ出すので、その分の空間を確保するためです。
蓋を取り付けて完成です。
右側は接着して固定。左側はアルミ板を加工した腕が上下して開け閉め動作をします。また、電池交換の必要もありますから、このように解放もできます。
完成形しました。なんとか想定した通りの動作をしてくれます。一番最初に動いたときは感動しました。何度も図面を書き直したり、部品を作り直したりした苦労が報われた瞬間はなんとも言えません。この瞬間の為にこつこつと積み上げて来た時間は無駄では無かった!
反省点は多々あります。紙の箱は安いけど面がたわんでいて精度が悪く設計図どおりに加工できません。やはり板を使って作るか、既製品の箱があれば、それを使った方が良かったと思います。また、トグルスイッチは小さな物を使いましたが、それでも動かすにはかなりの力が必要で、このモーター・ギア・ユニットが出せるトルクではギリギリのようです。何度も動かして電池が消耗するとトルク不足になって途中で止まってしまいます。もっと強力なモーター・ギア・ユニットを使えば良かったと思います。手持ちの物で間に合わせたのがいけなかったのでしょう。
費用
紙の箱 | 105円 |
乾電池 単三 4個 | 105円 |
抵抗器 51Ω | 5円 |
トグル・スイッチ | 210円 |
マイクロ・スイッチ | 130円 |
合計 | 555円 |
2011年4月19日 記